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もしも、あの時… 07/01/14

1、「07/01/14」

2014年7月1日。
今、日本の歴史に一つの大きな転換点が訪れようとしています。
安倍内閣が、憲法9条の解釈改憲によって、日本の集団的自衛権行使を容認する閣議決定を行おうとしています。

これは、同盟国が他国から武力攻撃を受けた場合、たとえ日本が直接の攻撃を受けていなくても、自国への攻撃があったと捉え、他国へ武力行使することを「防衛」として認めるということです。

憲法9条を素直に読む限り、このような行為を可能とする解釈を導き出すのは無理でしょう。
第二次世界大戦の敗戦後、1947年の日本国憲法施行以来、ぎりぎりの所で守って来た憲法9条を、今、日本は捨て去ろうとしています。
そして、行政府である筈の内閣の判断だけで、このような憲法の極端な拡大解釈が認められるなら、立憲主義も三権分立も、実質的になし崩しとなってしまうのではないでしょうか?

将来、今日という日は日本のターニングポイントとして「もしも、あの時…」と、回想される日となるのでしょう。


20140630総理官邸前デモ14 / midorisyu

20140630総理官邸前デモ03 / midorisyu

2、歴史改変SF

エンタテインメントには、歴史改変SFという、SFと歴史小説の融合のようなジャンルがあります。

「もし、関ケ原の合戦で豊臣側がかっていたら?」など、もし歴史上の重大な事件が違った結果になっていたら、その後の歴史や世界はどのように変わったのかを描くものです。

私たちは、人生の中で「もし、あの時のことが違った結果だったら、今どうなっていただろう?」と考えることがありますが、それを「歴史」に当てはめて、「ありえたかも知れないもう一つの歴史」を空想して見るのです。

歴史改変SFは、タイムトラベルによる知的な思考ゲームの面白さと共に、私たちの社会や歴史を、もう一度見つめ直して見るための鏡を提供しようとするのです。

3、アーサー王宮廷のヤンキー

「歴史改変SF」の歴史は古く、実際には文学にSFという概念が登場する以前から、一種の空想小説として語られてきました。

最も初期の歴史改変SFとして有名なのは、「トム・ソーヤの冒険」のマーク・トウェインが1889年に発表した「アーサー王宮廷のヤンキー」でしょう。

19世紀末の近代人であるアメリカ人が、アーサー王時代の英国にタイムスリップしてしまう物語です。

Knight Templar

中世の貴族社会に放り込まれてしまった主人公のドタバタがユーモラスに描かれると共に、すでに産業革命の始まったアメリカ人の眼を通して、中世英国における封建社会の腐敗や圧政が批判されています。

実はマーク・トウェインは、タイムスリップSFの形を借りて、中世の腐敗した英国から逃れて新天地を求めて創られた、「希望の国」であるはずのアメリカに残っていた、古き因習や悪しき体質を風刺していたのです。

4、H・G・ウェルズ

現代SFの元祖であり、タイムマシンというアイディアを初めて提唱したH・G・ウェルズは、歴史家であり社会主義に傾倒する社会思想家・運動家でもありました。

第一次大戦の終戦をきっかけに、世界は戦争を無くすために国際連盟を樹立すべきだと提唱し、ワシントン会議にも出席しています。
第二次世界大戦の開戦時には、「人権宣言」についての書簡をルーズベルトに送りましたが、これは1948年の国連会議における「世界人権宣言」のルーツとなったものです。

H・G・ウェルズは、全ての国家による人権の遵守と軍隊の放棄を訴えていました。
そして、このウェルズの思想は、日本国憲法の原案、とくに憲法9条の作成に大きな影響を与えたとも言われています。

「社会運動家」ウェルズは、いずれ社会主義思想が世界に広がり、平等な社会が実現すると信じていました。

しかし、彼のタイムトラベルSFでは、未来は決してユートピアとして描かれませんでした。
「作家」としてのウェルズは、人類の本質とその暗い未来を予感していたのかもしれません。

The Past and future

5、高い城の男

おそらく歴史改変SFというジャンルで最も人気があるのは「もし、ナチス・ドイツが第二次世界大戦に勝利していたら?」というテーマでしょう。

中でも有名なのは、フィリップ・K・ディックが1962年に発表した「高い城の男」です。

「高い城の男」は、ナチス・ドイツと大日本帝国が第二次世界大戦に勝利し、アメリカがドイツと日本に分割統治された世界を描いています。
この作品がユニークなのは、「占領下にあるアメリカ人の間で、『もし、アメリカが第二次世界大戦に勝っていたら?』という歴史改変小説が密かに流行している」、という入れ子構造になっていて、作品世界に厚みをもたらしていることです。

フィリップ・K・ディックは、終生2つのテーマだけを追い続けた作家でした。
それは「いまの世界は偽物で、もう一つの本物の世界があるのではないか?」そして「この世の中には、『人間そっくりだが、人間ではない偽者』が混じっている。そして自分も、その偽者かもしれない」という、実存の不安についてのアイディアでした。

ディックはこのアイディアについて、ナチス・ドイツが犯した罪を知った時に「なぜ、人間は同じ人間に対して、このような恐ろしい行為が出来るのだろう?」とショックを受けた経験が元になっている、と語っています。

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6、日本の「架空戦記ブーム」

日本にも1980年代から90年代にかけて、「架空戦記ブーム」という形で歴史改変SFが流行しました。
架空戦記モノとは、「もうひとつの第二次世界大戦」を舞台に日本軍が歴史とは異なる輝かしい活躍をして、時には戦争に勝利する、という内容の作品群です。

檜山良昭の「大逆転! ミッドウェー海戦」や荒巻義雄の「艦隊シリーズ」の大ヒットを皮切りに、小説のみならず、若もの向けのライトノベルからマンガさらにはゲームまで、おびただしい数の架空戦記が売り出されました。
架空戦記の中での日本軍は、多くの場合「爽やかな正義の軍隊」として描かれています。

日本の架空戦記ブームは「歴史の転換点を通して、過去を見つめ直す」のでは無く「歴史を修正して、不都合な過去を見ないようにする」ものでした。。

「不都合な、見たくない歴史や現実から目を背ける」これは、正に今の日本と日本人の姿なのではないでしょうか?

7、「11/22/63」

昨年、スティーヴン・キングの長編「11/22/63」という作品がヒットし話題となりました。

 

この不思議な題名はジョン・F・ケネディが暗殺された「1963年11月22日」を意味しています。
1958年の過去に通じるタイムトンネルの存在を知った現代の高校教師は、過去へと旅して、何とかケネディ暗殺を阻止しようとします。
「ケネディ暗殺」は、アメリカ人自身が「理想の国アメリカ」を信じることが出来なくなる転換点となった、象徴的な事件でした。
主人公は「失われてしまった理想のアメリカ」を、もう一度取り戻そうとするのです。

Country Schoolhouse

「11/22/63」は、ケネディ暗殺をテーマにした歴史改変SFと、現代人が1958年というオールディーズの時代を追体験するという、甘くほろ苦いノスタルジーとしてのタイムトラベルファンタジーを併せ持った、キングらしい読み応えのある作品でした。

歴史改変SFはエンタテインメントとして語られていても、その背後には「失ってしまった過去を取り戻すことはできない」という哀しみが隠れています。

そして、私たちにとっての「07/01/14」は「取り返しのつかない過去」ではありません。
今、目の前にある「現在」なのです。

しかし、私たちは「現在の改変」を成すことが出来ずに、苦い思いで「現在」が通り過ぎるのを見ています。
まるで「失った過去」のように。

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