1、叙述トリック「イニシエーション・ラブ」
2015年に公開された映画で印象に残ったものの一つは堤幸彦監督、前田敦子主演の「イニシエーション・ラブ」です。乾くるみの原作は恋愛小説ですが、その独創的な語り口からミステリーとしても高く評価されていました。
一種の叙述トリック小説なので「映画化不可能」と言われていましたが、堤幸彦監督は大胆極まる方法で映像化し、賛否が分かれましたが、ユニークな作品となりました。原作と異なるクライマックスの処理は、原作者のアイディアらしいですが、素晴らしいと思います。
2、類型的なドラマから新鮮な驚きを
映画は、主人公の繭子と鈴木君が出逢い愛を育む前半と東京に出た鈴木君と地元に残った繭子の心が次第に離れてゆく後半の2部構成で、大人になる過程で誰にでも訪れる「通過儀礼」としての恋愛を描いています。堤幸彦の演出は細部が類型的で繊細さに欠ける面があるのですが、このドラマは類型的な若者たちの類型的な恋を描くことがテーマなので、あまりマイナスになっていません。
そして、映画は類型的なままでは終わりません。この映画は、アクロバティックなストーリーテリングによって、類型的なラブストーリーから、新鮮な驚きと発見を生みだそうとしているのです。
3、前田敦子の魅力
それでも、何度か「凡庸な恋愛映画」になってしまいそうな瞬間があるのですが、それを救っているのが、ヒロインの繭子を演じる前田敦子です。
かなり過剰な「ぶりっこ演技」なのですが実にキュートで、映画の中の鈴木君だけでなく映画を見ている観客も、その魅力の虜にします。映画をご覧になった方にはお分かりの通り、このヒロインは「ぶりっこ」でなければならない必然性があり、前田敦子は見事にそれに応えています。
TVのトーク番組などで見る前田敦子本人は、どちらかというと、ぶりっことは真逆な、そっけない程ぶっきら棒なキャラクターなのですが、そのギャップも含めて、AKB48のエースだった「元トップアイドルならでは」の演技ではないでしょうか。
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4、女は怖い?
映画「イニシエーション・ラブ」の感想で「女は怖い」という声が多く聞かれましたが、それはクライマックスで観客が感じる「驚き」から来るものです。落ち着いて思い返してみると、実は主人公の繭子は普通の女の子であり、その行動も「よくある」ものなのですが、語りのアクロバットにより、一見「悪女もの」のようになっているのです。
しかし、改めて考えてみると、いわゆる「悪女もの」映画のヒロインたちは本当に「悪」なのでしょうか?
彼女たちはなぜ魅力的なのでしょう?
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5、悪女もの映画はレジスタンス
「悪女もの」映画は非常に人気があり、ひとつのジャンルといって良いほど、様々なアプローチで作られていますが、改めて考えてみると不思議な感じがします。だって「悪男もの」というのはないですよね?
「悪女もの」のヒロインは、魅力と知恵を駆使して男たちを破滅させますが、私たちは、反感を覚えるより、その姿に惹きつけられカタルシスを覚えます。
それは、彼女たちの行動が、女性の前に長く立ちはだかって来た「男社会の壁に」風穴を開けるレジスタンスだからではないでしょうか?
そこで、そんな「悪女もの」映画からオススメの10本をご紹介したいと思います。