月別アーカイブ: 2016年1月

「イニシエーション・ラブ」と「悪女もの映画」②

「悪女もの」映画、オススメ10本

VERONICA LAKE, STAR OF THE SILVER SCREEN 1940S / roberthuffstutter

1、「アデルの恋の物語」(1975年)監督フランソワ・トリュフォー

フランスの文豪ヴィクトル・ユゴーの娘アデルが、たった一度、関係を持っただけの英国人中尉に延々と執着し続ける姿を描いた、巨匠フランソワ・トリュフォー監督の名作です。周囲の目はおろか相手の姿すら見えなくなってしまったアデルの妄執は、正に「狂気の恋」なのですが、次第に私たちすべてが抱く「恋心」の本質を照らし出して行きます。
美しさと鮮烈な演技を見せた、現代フランスを代表する女優、イザベル・アジャーニの登場は衝撃的でした。もし未見の方がいらしたら是非ご覧ください。

2、「ジェラシー」(1980年)監督ニコラス・ローグ

退廃の都ウィーンを舞台に、テレサ・ラッセルが演じる、自殺未遂を犯した情緒不安定だが魅力的な女に、精神分析医の男が翻弄されて行きます。共演は「サイモンとガーファンクル」のアート・ガーファンクルという異色のキャスティング。
時制が錯綜し、少しずつ謎が解き明かされるミステリアスな語り口が魅力的な、「赤い影」等で知られる映像派、ニコラス・ローグの最高傑作です。

3、「白いドレスの女」(1981年)監督ローレンス・カスダン

さえない弁護士(ウィリアム・ハート)は、真夏の蒸し暑い夜に出会った魅力的な人妻(キャスリーン・ターナー)から夫殺害計画に誘われ、破滅の道を歩み始める、エロティックなサスペンス映画です。
「スター・ウォーズ」や「インディ・ジョーンズ」シリーズ等の名脚本家、ローレンス・カスダンの監督デビュー作ですが、脚本・演出・演技、いずれも見事で、フィルム・ノワールとして、ほぼ完璧な出来映えです。
「悪女映画で1本だけ」と言われたら、この作品をオススメしたいほどです。

4、「ヘカテ」(1982年)監督ダニエル・シュミット

北アフリカの砂漠の街を舞台に、美しく謎めいた人妻(ローレン・ハットン)との恋に運命を狂わされる若い外交官の姿を、ダニエル・シュミットがスタイリッシュに描きます。
男の振り回される様は「精神的SM」とすら言える感じで、ラストのヒロインの微笑みが「男女の間に横たわる深い溝」を鮮やかに炙り出します。

5、「疑惑」(1982年)監督野村芳太郎

夫に対する保険金殺人の疑いをかけられた女(桃井かおり)と女弁護士(岩下志麻)の心理戦を描く、松本清張原作の裁判ミステリー映画です。感情過多に陥り、話の整合性が失われがちな日本映画の悪癖を論理で抑えて、日本映画の情緒とアメリカ映画のロジックを両立させた秀作となっています。
名作「砂の器」の野村芳太郎監督による映画ですが、この作品こそ、松本清張作品の映画化の最高傑作ではないかと思います。

6、「ブラックウィドー」(1987年)監督ボブ・ラフェルソン

富豪の男性と結婚しては次々と殺害して、巨万の富を築いて行く謎の女(テレサ・ラッセル)と、それを追い詰めて行く女捜査官(デブラ・ウィンガー)を描いた秀作サスペンス映画です。「男と女の関係」よりも「女同士のプライドと戦い」に焦点を当てた視点が新鮮で、再評価されるべき作品でしょう。
ボブ・ラフェルソンの監督作品では、現代アメリカ文学の名作をジャック・ニコルソンとジェシカ・ラング主演で見事に映画化した「郵便配達は2度ベルを鳴らす」(1981年)もオススメです。

 

7、「愛という名の疑惑」(1992年)監督フィル・ジョアノー

精神科医(リチャード・ギア)が、美しい患者(キム・ベイシンガー)の関係する殺人事件に巻き込まれて行く、典型的なファム・ファタールもののサスペンス映画ですが、脚本のツイストと女優たち(キム・ベイシンガーとユマ・サーマン)の演技が優れています。
有名な「氷の微笑」と同時期に公開されましたが、こちらの方が印象に残りました。

8、「蜘蛛女」(1993年)監督ピーター・メダック

マフィアと内通している悪徳刑事(ゲイリー・オールドマン)は、マフィアの女殺し屋(レナ・オリン)を護送する任務を負いますが、それが破滅の始まりになります。暴力的で狡猾で、史上最強と言っても良いレナ・オリン演じる悪女のパワフルなスゴさは、ほとんど爆笑の域に達しています。
それまでの、「謎めいて妖艶」といった「悪女」のイメージを完全に覆した、新たな「悪女」の登場です。

9、「誘う女」(1995年)監督ガス・ヴァン・サント

ひたすら「有名になる」ことを望み、そのために夫が邪魔になった地方局のお天気お姉さん(ニコール・キッドマン)は、色仕掛けで高校生に夫を殺させようとしますが…。
実際の事件をベースにしたサスペンス映画で、ニコール・キッドマンが演技派として飛躍するきっかけとなりました。「悪女」と呼ぶには、あまりにセコイ功名心と浅知恵が、苦い笑いを誘います。

10、「Uターン」(1997年)監督オリバー・ストーン

マフィアに借金を返すためにラスベガスに向かっていた男(ショーン・ペン)が、途中で立ち寄った田舎町で謎めいた美女(ジェニファー・ロペス)に出会ったことから、裏切りと殺戮のゲームに巻き込まれて行く、社会派オリバー・ストーンには珍しい、タイトなサスペンス映画です
共演陣も、ニック・ノルティ、ビリー・ボブ・ソーントン、ホアキン・フェニックスなどの演技派が揃い、ジェニファー・ロペスにとって、女優としてのベスト作品でしょう。

以上、「悪女もの」映画のオススメを、いくつかご紹介してみました。
参考になれば幸いです。
(^O^)

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「イニシエーション・ラブ」と「悪女もの映画」①

1、叙述トリック「イニシエーション・ラブ」

2015年に公開された映画で印象に残ったものの一つは堤幸彦監督、前田敦子主演の「イニシエーション・ラブ」です。乾くるみの原作は恋愛小説ですが、その独創的な語り口からミステリーとしても高く評価されていました。

一種の叙述トリック小説なので「映画化不可能」と言われていましたが、堤幸彦監督は大胆極まる方法で映像化し、賛否が分かれましたが、ユニークな作品となりました。原作と異なるクライマックスの処理は、原作者のアイディアらしいですが、素晴らしいと思います。

2、類型的なドラマから新鮮な驚きを

映画は、主人公の繭子と鈴木君が出逢い愛を育む前半と東京に出た鈴木君と地元に残った繭子の心が次第に離れてゆく後半の2部構成で、大人になる過程で誰にでも訪れる「通過儀礼」としての恋愛を描いています。堤幸彦の演出は細部が類型的で繊細さに欠ける面があるのですが、このドラマは類型的な若者たちの類型的な恋を描くことがテーマなので、あまりマイナスになっていません。

そして、映画は類型的なままでは終わりません。この映画は、アクロバティックなストーリーテリングによって、類型的なラブストーリーから、新鮮な驚きと発見を生みだそうとしているのです。

3、前田敦子の魅力

それでも、何度か「凡庸な恋愛映画」になってしまいそうな瞬間があるのですが、それを救っているのが、ヒロインの繭子を演じる前田敦子です。

かなり過剰な「ぶりっこ演技」なのですが実にキュートで、映画の中の鈴木君だけでなく映画を見ている観客も、その魅力の虜にします。映画をご覧になった方にはお分かりの通り、このヒロインは「ぶりっこ」でなければならない必然性があり、前田敦子は見事にそれに応えています。

TVのトーク番組などで見る前田敦子本人は、どちらかというと、ぶりっことは真逆な、そっけない程ぶっきら棒なキャラクターなのですが、そのギャップも含めて、AKB48のエースだった「元トップアイドルならでは」の演技ではないでしょうか。


Tetra Pak® – Couple on beach with Tetra Classic® packages, 1960s / Tetra Pak

4、女は怖い?

映画「イニシエーション・ラブ」の感想で「女は怖い」という声が多く聞かれましたが、それはクライマックスで観客が感じる「驚き」から来るものです。落ち着いて思い返してみると、実は主人公の繭子は普通の女の子であり、その行動も「よくある」ものなのですが、語りのアクロバットにより、一見「悪女もの」のようになっているのです。

しかし、改めて考えてみると、いわゆる「悪女もの」映画のヒロインたちは本当に「悪」なのでしょうか?
彼女たちはなぜ魅力的なのでしょう?


A GI’s Dream Come True…Veronica Lake, one of the popular WWII Pin-Ups / roberthuffstutter

5、悪女もの映画はレジスタンス

「悪女もの」映画は非常に人気があり、ひとつのジャンルといって良いほど、様々なアプローチで作られていますが、改めて考えてみると不思議な感じがします。だって「悪男もの」というのはないですよね?

「悪女もの」のヒロインは、魅力と知恵を駆使して男たちを破滅させますが、私たちは、反感を覚えるより、その姿に惹きつけられカタルシスを覚えます。
それは、彼女たちの行動が、女性の前に長く立ちはだかって来た「男社会の壁に」風穴を開けるレジスタンスだからではないでしょうか?

そこで、そんな「悪女もの」映画からオススメの10本をご紹介したいと思います。

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