1、ゆ、許せん!
「ゆ、許せん!」中学生になったばかりの私はそう叫んで、テレビのスイッチを切ってしまいました。
その時テレビには、「宇宙戦艦ヤマト」が何度目かの再放送中で、主人公の古代進とヒロインの森雪がヤマトのデッキで会話をしているシーンが映っていたのです。
大和ミュージアム / Norio.NAKAYAMA
NGC2246_2010-12-18_0002_SFBD / jacksonlu
2、宇宙戦艦ヤマト、ハリウッドで実写化!
先ごろ、1974年からテレビ放送されたSFアニメ「宇宙戦艦ヤマト」がハリウッドで実写映画化される、という驚きの発表がありました。
ハリウッド版のタイトルは「STAR BLAZERS」。
これは「宇宙戦艦ヤマト」がアメリカでTV放映されていた時の番組名です。
「宇宙戦艦ヤマト」は、ご存知のように、ガミラス星人の侵略によって放射能で汚染され、滅亡の危機に瀕している地球を救うために、宇宙戦艦ヤマトが放射能除去装置を求めてイスカンダルへと旅立つドラマです。
しかし、「宇宙戦艦ヤマト」をアメリカ人が映画化するというニュースには、多くの人が、どこか違和感を感じたのではないでしょうか?
3、アメリカ製の日本軍礼賛?
「宇宙戦艦ヤマト」は、宇宙を舞台にしたSFではありますが、その背後には、いわゆる「戦中派」であったスタッフ達にとっての、太平洋戦争に対する怨念と憧憬が流れていたのです。
地球を救うための宇宙戦艦ヤマトの戦いは、太平洋戦争末期に無念のうちに沖縄近海に沈んだ戦艦大和の復讐戦でもありました。
そのため、テレビ放映当時から「軍国主義の賛美ではないのか?」との批判も浴びていました。
しかし、背景にある「戦中派の軍国主義に対するロマンティシズム」といったものを完全に排除してしまうと、ヤマトの本質的な魅力も損なわれてしまう、というアンビバレントが有るのです。
そんな、「敗戦国」日本人の軍国主義時代へのノスタルジーを含んだ作品を、「戦勝国」アメリカ人が作るのです。
果たして、ハリウッドでアメリカ人が作る「ヤマト」は、どんな映画になるのでしょうか?
alley karasukojima / Norio.NAKAYAMA
imgp6774 / Matoken
4、アニメブームに乗り遅れるな?
私は、世代的にはギリギリ「宇宙戦艦ヤマト」世代だといえます。
ハイティーンが中心となったいわゆるアニメブームは、1977年の劇場版「宇宙戦艦ヤマト」を皮切りに、「松本零士アニメブーム」という形で始まりました。
それまでは完全に幼児向けだったアニメーションに、中学生から大学生までを中心とした若者たちが、つめかけるようになったのです。
しかし、私はどうもその波に乗れないでいました。
それは宇宙戦艦ヤマトに対して「ゆ、許せん!」というほどの怒りを抱いていたからです。
こう書くと「ヤマトの軍国主義礼賛が許せなかったのか?」と思う人もいるかも知れませんが、当時は子供でしたから、そんなことは考えていませんでした。
私が怒っていたのは、ヤマトにおける宇宙空間の描写がデタラメだったからなのです。
しかし、その怒りが「ゆ、許せん!」とまでなったのは、私自身のちょっとしたトラウマが原因になっていました。
4、科学考証への疑問
東宝の「ゴジラ」シリーズを初めとする怪獣映画や円谷プロの「ウルトラマン」シリーズ等、それまでも日本の実写にはSF的映像があふれていました。
けれど、科学考証がデタラメな作品が多く、当時の大人のSFファンからの評価は芳しいものではありませんでした。
こちらは小学生でしたから、喜んで見まくっていたのですが、宇宙空間に上下があったり、空気があったり、重力があったり、子供心にも「これは、なんか変じゃないか?」という描写が満載でした。
Voyage dans la Lune / striatic
MOC-023 LEGO Q Spaceship – Front Quarter / andertoons
5、友達との論争
そして、確か小学5年生頃のことだったと思います。私は友達と「日本SF映像の科学考証」について論争になりました。
その友達は男3人兄弟の末っ子でしたから、お兄さんの影響もあったのだと思いますが、ある時「日本のSF映画なんてダメだよ、デタラメな描写ばっかりじゃないか!」と吐き捨てるように言い始めたのです。
わたしもその点については疑問を感じていたのですが、当時の私は基本的に大人や社会というものを信じている真面目な子供でしたので、こう反論しました。
「待って、確かに日本のSF映画の描写はおかしい。でも、作っているのは大人でプロだよ。いくらなんでも、僕ら小学生が知っている程度のことを知らないハズがないよ。きっと、ワザとやっているんだよ」
「うーん。だとすると、あのデタラメに見えるのは何なんだろう?」
「きっと、僕らの知らない裏設定とかがあるんだと思う。もう少し大きくなったら分かるよ」
「そうだね。そうかも知れない」
論争は、私の勝ちでした。
6、裏切り(^o^)
ところが、大人になるまでもなく、私は徐々に恐ろしい真相に気が付き始めました。
あのデタラメに見えた宇宙空間の描写は、ただの「子供だまし」のデタラメであることが分かってしまったのです!
なまじ、友達を言い負かしてしまっただけに、この裏切り(笑)は私の子供心を傷つけました。
この頃から私は、大人や体制というものを信じない子供になって行った気がします。(^o^)
7、日本SF映画への屈折と期待
一方で、少し大きくなったので、日本実写SF映像のデタラメ描写には、現実的で実際的な事情があることも分かって来ました。
限られた予算の中で、スタジオの天井から糸で釣ったミニチュアで宇宙空間を表現しようとするために、地球の物理法則に縛られざるを得ない、という大人の事情も理解し始めたわけです。
その結果、ますます日本の実写SF映像に対する期待は、しぼんでしまいました。
しかし、私は日本のSFアニメには未だ可能性を見ていました。
アニメは絵ですから、正確な宇宙を描いてもお金がたくさん掛かる訳ではありません。アニメは大人の事情に縛られず、正確な科学考証ができるハズです。
SRS-22 Von Clausewitz / pasukaru76
HMS Nova Scotia / pasukaru76
8、ヤマトよ何故に
「宇宙戦艦ヤマト」は最初の放送時には人気が出ませんでしたが、「今までと違うSFアニメが始まった」と子供たちの間では噂になって、再放送によって少しずつブームになって行きました。
そこで私も、熱心なヤマトファンになった友達に勧められて、再放送の時にチャンネルを合わせてみたのです。
ところが!
アニメなのに、宇宙空間に上下があるのです!
無重力のハズの宇宙空間で、物が下に落ちるのです!
吹きさらし(?)の宇宙空間で、古代進と森雪が、ヘルメットもしないで会話をしているのです!
私は「ゆ、許せん!」とテレビのスイッチをぶち切り、以後アニメブームと距離を置くようになってしまったのです。
私が、日本のSF映像に帰還するのには、「機動戦士ガンダム」の登場を待たなければなりませんでした。