1、男と女で映画も違う
映画には、同じ作品なのに男性と女性とでまるで違った印象を与える作品があります。
例えば、アルフレッド・ヒッチコック監督によるサスペンス映画の名作「めまい」です。男性にはこの作品をマイ・ベストに挙げる人も多いのですが、女性にとっては「良い悪いは別にして、あまり好きではない」と感じられる映画らしいのです。
昨年末に公開された、ベン・アフレック主演の「ゴーン・ガール」というサスペンス映画も正にそんな作品です。「無類に面白い」感想を抱くことでは、男女とも変わらないのですが、男性は嫌悪感や拒絶反応を示し、一方、女性は理解を示し、さらには爽快感すら感じるらしいのです。
かなり評判になりましたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか?私もようやく観て来ましたが、これはミステリ・ファン必見の面白い映画でした。
2、ゴーン・ガール
「ゴーン・ガール」(Gone Girl) は、2012年に発表された女性作家ギリアン・フリンによるベストセラー小説が原作です。監督は「ファイト・クラブ」などで知られるデヴィッド・フィンチャー。主演のニックを演じるベン・アフレックは近年、オスカーを受賞した「アルゴ」などで監督としても活躍しています。妻のエイミーにはロザムンド・パイクが扮していますが、早くも今年度のアカデミー賞主演女優賞が有力視されています。
Ben Affleck – Feed America / Intemporelle | Erin Lassahn Photography
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ニックとエイミーは誰もがうらやむ美男美女の夫婦だと思われていましたが、結婚5周年の記念日にエイミーが、謎の失踪を遂げます。家には争った形跡があり、アリバイのない夫ニックは妻殺害の疑いを掛けられ、警察の捜査やマスコミの報道に次第に追い詰められて行きます。そのサスペンスと並行して、失踪前のエイミーの日記で、次第に破綻する夫婦生活が語られます。
そして、驚くべき展開の果てに「理想の夫婦」の真実の姿が浮かび上がるのです。
3、「めまい」との共通点
「ゴーン・ガール」はサスペンス映画として、意外な展開の連続で観客を全く飽きさせない見事な出来ですが、先ほど挙げたヒッチコックの「めまい」と共通しているのは、原作小説の売りである「意外なラスト」を、映画では途中で明かしてしまう構成にしている点です。ヒッチコックはその理由を「映画はサプライズではなくサスペンスで見せるものだから」と言っていましたが、確かに「めまい」も「ゴーン・ガール」も映画半ばで明かされる真相を軸に、最後まで強烈なサスペンスで引っ張ります。
しかし、「ゴーン・ガール」と「めまい」の共通点はそれだけではありません。どちらも、「愛における男と女の意識のズレ」がテーマになっているのです。意外なラストを途中で明かしてしまうのも、このテーマをはっきりとさせる目的があるのでしょう。
4、結婚という虚構
ヒッチコックの「めまい」は、「亡くなってしまった理想の女」の面影を別の女性で再現しようとする「男の執着」というテーマを、思い入れたっぷりに描いています。ですから、男性にとっては感情移入しやすいのですが、女性は男の勝手な思い入れに拒絶反応を示しがちです。
そして「ゴーン・ガール」は、夫婦間の殺人疑惑を描いたサスペンスというより「結婚」という「夫婦の共同作業」に対する「男と女の間の意識のズレ」がテーマになっているのです。夫による妻殺害疑惑の意外な真相の先に現れる、「結婚という虚構」に対する皮肉な現実は、男性とってはかなり怖いのですが、女性にとっては十分に共感できるもののようです。
ヒッチコックの「めまい」は元々「ゴーン・ガール(消えた女)についての物語」ですから、「ゴーン・ガール」を書いたギリアン・フリンには、「女の側から見た『めまい』を語ってみよう」という意図があったのでしょう。
5、エンタテインメントの醍醐味
「めまい」と「ゴーン・ガール」が優れているのは、サスペンスフルなストーリーを語ることが、そのまま「愛についての男女のズレ」という普遍的なテーマを語ることになっている点です。面白いサスペンス映画にハラハラドキドキしている内に、無意識に深刻で複雑なテーマについて考えることになる。これこそ、本当に優れたエンタテインメントの醍醐味でしょう。
映画「ゴーン・ガール」で、主演のベン・アフレックとロザムンド・パイクは、そのキャリアにおけるベストといって良い演技を見せていますが、それには監督の演出の力も大きかったのではないでしょうか?
次回は、そのお話をしたいと思います。
ヒッチコックの「めまい」が、なぜ原作の意外なラストを途中で明かしてしまったのか?について興味のある方は、ぜひこちらのコラムも読んでみてください。
「ミステリの本質は『意外性』?」http://woody.south-sign.com/?p=314